東京高等裁判所 昭和47年(う)3172号 判決
被告人 石井こと若林功子
〔抄 録〕
所論は、要するに、原判決は、本件コーズマイトがダイナマイトとほぼ成分を同じくし、雷管を使用しない場合でも不完全爆発をするもので、爆発物にあたるものと認定判示したが、本件コーズマイトは、ダイナマイトと異り、トリニトロトルエン硝酸アンモニウムを主成分とするもので、雷管等の起爆装置がなく、そのままでは爆発可能性がないものであって、原判決が不完全爆発を認定するにつき採用した証人及び鑑定人内田彰の原審公判廷における供述は、自己が実験した結果を供述したものではなく、伝聞事実を供述するものであって証拠能力も証明力もないもので、原判決が本件コーズマイトを爆発物にあたるものと認定判示したのは、事実を誤認しかつ法令の適用を誤ったものであり、右の誤が判決に影響を及ぼすことは明らかである、というのである。
そこで検討するに、本罰則三条にいう爆発物とは、理化学上の爆発現象を惹起するような不安定な平衡状態において、薬品その他の資材が結合する物体であって、その爆発作用そのものによって公共の安全をみだし又は人の身体財産を害するに足りる破壊力を有するものをいうのである(最高裁判所昭和三一年六月二七日大法廷判決・刑集一〇巻六号九二一頁。)。これを原判示のコーズマイト二号(以下本件コーズマイトという。)についてみると、原審記録及び証拠物によれば、本件コーズマイトは、中国化薬株式会社において、一般産業用すなわち採石現場等で発破に使用するため製造されたトリニトロトルエンを主成分とする爆薬であること、本件コーズマイトを雷管を使用して爆発させた場合の爆速は一秒間に五、〇〇〇ないし五、五〇〇メートル位で充分の爆轟性を有し、一〇〇グラムのコーズマイト一本で二立方メートルのコンクリートブロックを破壊する力があることがそれぞれ認められ、本件コーズマイトは、その構造において、理化学上の爆発現象を惹起する物体であって、その性能は、右爆発作用によって、公共の安全をみだし又は人の身体財産を害するに足りる破壊力を有するものであることが明らかである。すなわち、爆発可能性という用語を使うとすれば、本件コーズマイトはそれ自体で爆発可能性を有する物体であるということができる。なるほど、爆発物は、その使用を前提にして考えると、爆発を惹起すべき装置をも備えるのが通常であるところ、所論指摘のように、本件コーズマイトは雷管等の起爆装置を備えていないが、本罰則三条は、爆発物の使用に着手する以前の一定の類型の予備行為を処罰の対象とする規定であり、同条が「爆発物」と「其使用に供すべき器具」とを区別し、それぞれに対する製造、所持等の行為を独立に処罰の対象としており、「其使用に供すべき器具」には雷管等の起爆装置を含むと解されることから考えると、当該物体が前記の構造、性能を有し、爆発可能性を有する限り、起爆装置を備えていて、単なる点火、摩擦、衝撃を加えることによって直ちに爆発する状態になくとも、本罰則三条の爆発物にあたるものと解すべきである。ことに本件コーズマイトが正規の火薬類製造業者によって製造された爆薬であることをも考えれば、起爆装置(通常使用されるものは六号電気雷管)を備えていなかったとしても、これを本罰則三条の爆発物にあたると認めても、同条の適用範囲を拡張するものとはいえない。所論指摘のように、原判決が弁護人の主張に対する判断を示した部分において、本件コーズマイト二号は、ダイナマイトとほぼ成分を同じくし、と判示した点は、本件コーズマイトの成分は前記のとおりであって、ニトログリセリンを主成分とする爆薬であるダイナマイトとはその成分を異にするので、右は事実を誤認したものであるが、右の誤認はいまだ判決に影響を及ぼさないということができ、また、原判決が前記部分において、本件コーズマイトは、雷管を使用しない場合でも完全に密封した鉄パイプに詰め、これを二〇〇度以上で熱するか、あるいはライフルを射ち込む等の方法によって不完全ではあるが爆発するものである、と判示した点は、右の不完全爆発に特殊の器具、条件を必要とする点で、これが本件コーズマイトに起爆装置がなくても爆発物である旨の判示とすれば必ずしも適切な説明ではなく、本件コーズマイトが本罰則三条の爆発物にあたることの説明としては右の部分は不要であると認められ、その点の当否は判決に影響を及ぼさないということができるので、右判示に照応する所論指摘の証人及び鑑定人内田彰の原審公判廷における供述部分についての証拠能力及び証明力の有無につき判断するまでもなく、この点に関する所論は採用できない。
(龍岡 西村 福嶋)